スワンボート



「またか・・・」

そう呟き、冷めた気持ちで、目の前の男を眺めると、相手も深々と溜息をついてきた。

「四十九院は、ちっとも上達しないな・・・」

そうである。
不本意ながらも、強制的に何度もボート部に通う日々が続いて居た。
一番の不本意は、目の前のマッチョか・・失礼な事にそう思いながらも、来る度に練習するが、ちっとも上達しないのである。
やる気も気合いも根性も前向きなものが、これっぽっちも入っていないせいか、当然の結果である。
しかし、何故、毎回自筆の『仮入部届け』の用紙が存在しているのだろうか? ひょっとしてスミスや慈 達の陰謀なのか?
些細な疑問はどうでも良いが、いい加減どうにかしなければ、永遠に千藤キャプテンとマンツーマンでお付き合いが続いてしまう。

「こんなにも愛情込めて、懇切丁寧に指導しているのに全く上達してくれない。」

キャプテンの嘆きを聞きながら、内心ではもういい加減勘弁してくれと言う心境である。

「小さな親切、大きなお世話・・・・・そもそも愛情は余計だ。」

幸いなことに、俺の失礼な呟きはキャプテンの耳には届かなかった。
今日も今日とて、まるっきりやる気ゼロのままなげやりにボートを漕いでいると


ごん


何かにぶつかった。



「今晩は」

其処には、真っ白なスワンボートが停泊し、中から爽やかな微笑みをたたえた好青年が手を振っていた。




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