深夜ボート部



ふと気が付くと、霧の中に居た・・・・
何故か両手にはボートのオールが・・・。
何故こんな物を持っているのだろうか?
足下を見ると、ボートらしきものに乗って座っていた。
先ほどまで学校の談話室に居たはずなのに、何時の間に・・・
そう思いながらも、両手に持ったオールを眺めていると、身近に人の気配がする。
視線を上げると、目の前には、マッチョ系青年が腕を組みながら、俺を見ている。
何故、マッチョ?そう思いながら、呆然と相手の青年を眺めていると、これでもかって程、白い歯を強調するように微笑みながら自己紹介をしてきた。

「ボート部に、ようこそ!  」

アパガードのCM? と呆然としていると、その男は口を開いた。

「今日から、直々に、四十九院の個別指導を担当する、ボート部キャプテンの、『千藤 勉』だ。 よろしく。」

なにやら信じられない言葉が聞こえてきた。
空耳か?

「えっ 個別指導? ・・・・個別指導! 何じゃそりゃ!」

恥も外聞も無く、叫んだ俺に、千藤キャプテンは、

「素人相手に、急にボートを漕げって無茶は言わない。 大丈夫だ、うちの部は、一から丁寧に教える方針を採用いる。」

それ以前に、何故マッチョじゃない、何故俺がボート部に・・何かの間違いではと 思いながらも、疑問を口にした。

「確か、クレアールには、ボート部など無かったはずでは? 例えボート部があったとしても、俺はボート部には入部していませんが。」

内心あせりながらも、毅然とした態度で臨む俺に、千藤キャプテンは、

「ボート部は夜しか活動していないからな、一般には知られていないかも知れない。 それよりも、仮入部の申請書が出てるぞ?」

ほれ と、見せられた用紙は、確かに俺の名前が記されたものだった。

「仮入部申請書?・・・四十九院芳・・・ってこれ俺の名前が書いてあるじゃんかぁ!  何時の間に!!」

偽造か?それとも何かの陰謀か? そう思いながらも、受け取った用紙をこっそり始末していると、千藤キャプテンが、回りにお仲間が居ることを教えてくれた。

「大丈夫だ お前だけじゃ無いから心配するな」

お仲間? そう思い、回りを見渡すと、先ほど校庭で見かけた生徒がボートに乗って居るのが見えた。

「って さっき迄、霧で何も見えなかったじゃないかぁ! どう成ってるんだぁ それより、此処、何処ですかキャプテン!」

そう叫んだ瞬間、俺は談話室に居た。
一体今のは何だったんだろう?
夢なのか?
そう思いながらも、心配そうな友人に、何でもないと返事し、会話を続けた。
この時は未だ、夜の学校の落とし穴に 気が付くはずも無かった。



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